「再燃」 堀江健太 

 

<導入>

私は東京の郊外に育ちました。

人が集まる大きな都市と、自然と人が調和して生きる素晴らしい田園風景の両方を見て育ちました。

人間が自然の営みとともに歩む光景。

本弁論では、この美しい田園風景を守ることについて取り上げたいと思います。


<現状>

まず、田園風景を、農業が継続的に行われている農地の風景と定義します。

この田園風景を生み出す農地は、年々縮小しています。

縮小の主な理由は、「農地の耕作放棄地化」が進んでいるためです。

耕作放棄地とは、以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えの無い土地と定義されるものです。


現在日本には、先ほどの農地面積とは別に、全国土の1パーセントにあたる40万ヘクタールもの耕作放棄地が存在しており、平成12年からの5年間で約5万ヘクタール増加しています。

このように、田園が失われた結果、耕作放棄地はたしかに増えているのです。


農地が減り、耕作放棄地が増えるということは、人と自然の調和が失われていることだと考えます。

ここで言う調和とは、人が自然の営みの中に組み込まれ、それが継続している状況と定義します。


<理念>

人と自然の調和を守りたい!

人の手が加わっていない自然、例えば屋久島の原生林には確かに美しさがあります。

しかし、私が美しさを感じているのは、人と自然が調和している姿です。


人と自然が関わると、ともすれば乱獲に代表されるような搾取を行うものになります。

対して、調和している場合は、自然の営みを尊重し、恩恵を受け続けられるように手をかけていきます。

結果、人間は、自然のサイクルにくみ込まれ、相互に支えあう関係となります。ここに、自然と人間の最適な関係があるのです!


本来、自然は自然だけで完結したサイクルを持っています。

その中に、自然を壊しうる我々人間が組み込まれ、自然と協調して生きる。

ここに私の考える調和の魅力があるのです。


そしてその魅力ある調和が最も現れている田園風景こそ、我々が守るべきものなのです!


<問題点>

では、私の言った美しさが失われること、すなわち人と自然の調和が崩れることの何が問題なのでしょうか。

一度作られた調和から外れることは、今まで受けていた恩恵を失い、かつ抑えられていたデメリットを双方に生じさせることとなるのです。

具体的には、耕作放棄地は鳥獣や病原菌、害虫の温床となり、農家への被害を招きます。

また、素晴らしい風景に癒される保健休養機能、農地の洪水防止の機能、水質浄化、気候緩和などの役割が、失われてしまいます。

これらは、農地以外にも影響を及ぼします。

農地は、山地や川や海とも密接に関わっています。

人間みんなが被害をこうむりえるのです!


そして、自然そのものにも悪影響を与えることとなります。

農地は、動植物の生存に欠かせない、栄養源や棲家としての役割を持っています。

動植物は全てが連鎖関係の生態系サイクルで繋がっています。つまり、農地は全ての動植物に必要不可欠な存在に違いないのです!!

こんな重要な農地が失われれば、どうなるでしょう?

農地に依拠する動植物は消え、それに関係する動植物の激減を招きます。これは巡り巡って、全ての生物を結ぶ生態系サイクルの破壊につながります。


このような双方への害を防ぐため、何としても農地を守り、人間と自然の調和を維持しなければならないのです!!


<原因>

 それでは、人間と自然の調和が失われる原因は何なのでしょうか?

その主たる物こそが耕作放棄地の問題であると分析します。

以下で、耕作放棄地が発生し、存在し続ける原因を分析いたします。

1つ目は、農家における担い手不足、2つ目は、耕作放棄地を耕すメリットの欠如です。

まず一つ目、農家における担い手不足です。

政府の調査によると、総農家数は50年前の半分以下である253万戸、農業従事者もピーク時の6分の1である251万人となっております。

そして、耕作を放棄した理由として、半数の方が「あとを継ぐ労働力がみつからないこと」をあげています。

つまり、農地の担い手が存在しないため、やむを得ず農地を耕作放棄地としてしまうのです。

さらに、労働力がみつからない原因は「農家の収入が低いこと」にあります。これは、農家の90%以上が「収入が十分でない」との理由から、子供に農業を引き継いでいないことに裏付けされます。

ここで注目すべきことは、この低収入農家は全て零細農家であり、これと対局をなす「認定農業者」は大きな利益を上げているということです。

認定農業者は、品種選択などの農業経営効率化への取り組みを国から認定されている農家のことです。このことから、時代や地域の特性に合わせた農業戦略を行えば、農家は決して利益を臨むことが出来ない職業でないと判断できます。


次に二つ目、耕作放棄地を耕すメリットの欠如です。

耕作放棄地を再び耕すには、1ヘクタールあたり20時間もの時間と60万円以上のコストが伴います。平均すると、1つの放棄地を再生させるために、300万円もの費用がかかってしまうのです。

しかし、こうして農業を始めても実際に得られる収入は平均年間数百万円。

こんな収支の現状に多くの方はためらいを感じ、耕作放棄地の再生に踏み出せないのです。実際に、耕作放棄地を再生利用しない理由として、「再生する際の、時間や手間を含めたコストを懸念する」が農業共同組合の調査によると、90%以上を占めています。


<プラン>

それでは、農地の耕作放棄地化を防ぐためのプランを2つ提案させて頂きます。

1つ目は、営農作物アドバイザー制度及び耕作放棄地斡旋ネットワークの設立、

2つ目は、アドバイザー制度の導入とあわせての補助制度の拡充です。


1つ目は、農家の担い手不足についてです。

これには、農家の収入がすくないこととそれに付随して、人材が確保されないという2つの要素が認められます。

従って、まずは農家の低収入の面を打開するため、営農作物アドバイザー制度を設けることとします。

具体的には、土地状況や環境。ひいては市場状況などに応じて、最も収益が上がる農作物の品目を専門のスタッフが個別に指導・監督していくことにいたします。

実際、従来の方法での耕作に固執している零細農家ほど収入が低い傾向にあるため、彼らに対し、農地の特性にあった新たな経営戦略を指導することは非常に有効です。ここで、高収益がのぞめる農作物を栽培すれば、大きな利益が生じ、低収入だからとの懸念を打開できることでしょう。

加えて、農業を経営する人材を確保するために、耕作放棄地斡旋ネットワークの設立を提言いたします。

これは、農地を耕作する人材を全国規模で募集し、登録して、研修を通じて知識、技術を身につけ、農地所有者の要望に応じて派遣していくと言うものです。こうすることで、人材が不足していることによって耕作放棄地になることを防ぐことができます。

2点目に、耕作放棄地を再生させるメリットが乏しい事です。

これについては、アドバイザー制度の導入と共に、耕作放棄地だった土地を再生して作物を作った場合に適用される補助制度の拡充を行います。具体的には、現状において、そば、大豆、麦、なたねを作付けした場合にのみ認められている補助を、全作物に対して適用させることとします。

再生にはコストが足枷となっておりますが、再生後は地力が回復しているため、高い収益が望める傾向にあります。

そういった土地に、アドバイザーが適切だと判断した作物を栽培することで、より確実に大きな利益を上げることができます。

結果的には、耕作放棄地再生を推し進めることは間違いありません。


これらのプランを実行することにより、耕作放棄地の発生および存続を防ぎ、耕作放棄地をなくすことができるはずです!!


<締め>

人と自然の調和は、本来あるべき姿です。

技術の発展と共に調和が失われることがあっても、田園風景にはそれがある。

失われつつある田園を再燃させましょう!

それが、調和を失いかけた我々自身を再燃させることになるのです!

ご静聴ありがとうございました


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