『救える命』 小林拓矢 

 

<導入>

私は、ある記事で一人の臓器移植患者が、自身の臓器を「まるちゃん」と名付けてそう呼んでいるのを知りました。皆さんは、なぜこの患者が、自身の臓器に「まるちゃん」と名付けたか分かりますか?それは、他人の臓器の免疫と自身の免疫の反発から生じる以前の拒絶反応の経験から、「一緒に、丸く生きていこうね」という思いを込めて名付けたからだそうです。この患者は、未だに拒絶反応の苦しみや恐怖と闘っているのです。

これは、完治が難しい臓器の病に苦しむ人々のほんの一例に過ぎません。他にも様々な医療問題で苦しんでいる人々がいますが、これらの人々の苦しみを取り除くことの出来る技術があります。それは、ヒト・クローニング技術です。

<語句定義>

 ヒト・クローニング技術とは、人の皮膚などの細胞から核を取り出し、それを女性の卵子に組み込むことで、核を取り出した人と同じ遺伝情報を有する細胞を人工的に作り出す技術のことです。

<現状・分析>

それでは、現在の日本における再生医療の現状について分析します。

現在、日本では、完治の可能性が低いまま放置され、苦しんでいる患者が確かに存在しているのです。

例えば、臓器移植においては、現在、年間それぞれ心臓90人、肺120人、腎臓12000人の待機患者が生まれています。この数が示すように臓器提供数の不足により適切な治療を受けられずに苦しんでいる患者が大勢存在しているのです。

 また、死ぬまでに少なくとも60%の人がかかるとされる遺伝性疾患において、免疫不全に関する患者数は、3

5千人以上と言われています。これらの患者は、遺伝子により最初から発病することが決められているため、予め発病を防ぐこともできません。従って、これらの遺伝性疾患にかかったら最後、患者は理不尽にも一生その病気に煩わされてしまうのです。

 

 しかし、こうした医療問題で苦しむ患者をヒト・クロ二ーング技術は、救うことが出来ます。臓器移植問題では、ヒト・クローニング技術とあらゆる細胞に変化できるES細胞の技術を組み合わせて解決することが出来ます。この組み合わせから出来るクローンES細胞は、臓器移植による拒絶反応を引き起こしません。また、そればかりか自身の細胞から臓器を作り出せるので、患者自身さえいれば、治療を行うことが出来るのです。


また、遺伝性疾患に関しては、ヒト・クローニング技術と遺伝子治療の技術を組み合わせることで、解決できます。この手法は、2002年に動物を対象とした実験で成功を収めており、今までは難病とされていた免疫不全に対しても、効率よく的確な治療法を確立することが出来ると期待されているのです。


臓器移植にしても遺伝性疾患にしても、いつ・どこで自分が患者側に回るのか分かりません。誰にでも起こりうるこれらの問題は、ヒト・クローニング技術で解決することが可能なのです。


しかし、このような利点を以てしてもヒト・クローニング技術の使用は、多くの国で禁止されているのが実情です。日本でも、2000年にクローン技術規制法が制定され、人間を対象としたクローン研究は禁止されてしまいました。これにより、ヒト・クローニング技術の技術的な進歩は妨げられ、未だに医療の現場への実用化が達成されていません。


このようなヒト・クローニング技術禁止の動きは、科学技術が暴走し、クローン人間が誕生した際に生じる社会秩序の乱れを防ぐことに重きを置いています。しかし、これは、同時に医療問題に貢献しうるといったメリットを軽視しているのです。

クローン人間に対する法整備も行われていない今、クローン人間が誕生しうる危険性を考慮すれば、当然の動きかもしれません。しかし、ヒト・クローニング技術で解決しうる未解決の医療問題があることを忘れてはいけません。

<理念>

本弁論の目的は、ヒト・クローニング技術によって解決されるはずの医療問題で苦しむ人々を救うことにあります。

ヒト・クローニング技術の目的は、決してクローン人間を生み出すことではありません。その目的は、他の医療技術と組み合わせることで、解決の困難な病で苦しむ患者を救うことにあるのです。

例えこのヒト・クローニング技術を実際に導入したとしても、患者以外のその他大勢の人々が、どんな実害を被るというのでしょうか?そんな実害を被る訳でもないその他大勢の人々の総意によってヒト・クローニング技術の恩恵は、患者にまで届いていません。

私は、このヒト・クローニング技術を活用することで、人々が病気に煩わされずにより自由に自分の生を享受出来る社会を目指します。

<原因>

では、現状の未解決な医療問題に貢献しうるヒト・クローニング技術の恩恵に人類があやかろうとしないのはなぜなのでしょうか?それには、2つの原因が挙げられます。

1つ目は、技術の発達の先にクローン人間が誕生しうる危険性があること。

そして、2つ目は、ヒト・クローニング技術の実態が人々によく把握されていないということです。

<原因分析@>

1つ目のクローン人間が誕生しうる危険性について説明します。現在の技術力では、クローン人間を生み出すことは非常に困難です。実際に霊長類に対するクローン個体の作成率は、数%に止まっています。しかし、この先技術力が暴走した際には、その可能性はゼロとは言い切れません。この可能性を受けて政府は、社会秩序と倫理の両面を保護するためにも、法律を以て予めヒト・クロー二ング技術全面禁止の立場を固持しているのです。


<原因分析A>

2つ目のヒト・クローニング技術の認知度について説明します。クローン技術に対する意識調査では、全体の約80%もの人々が、ヒト・クローニング技術の医療への応用について関心を抱いています。しかし、その実、約70%に及ぶ人々は、ヒト・クローニング技術が医療においてどのような可能性を秘めているのか把握しきれていません。つまり、ほとんどの人々は、クローン技術という用語や簡単な内容については知っているものの、その実態を把握しきれてはいないのです。このことから、人々は、ヒト・クローニング技術を実際に医療分野に応用することが、クローン人間の誕生にすぐさま直結すると考え、難色を示しているのです。

<プラン>

 これらを踏まえて私は、プランを2点提案します。


1点目は、現状のクローン技術規制法を改正すること。

2点目は、政府主導で国民に幅広くクローン技術の情報を提供することです。


 1点目については、実際にヒト・クロー二ング技術の研究を行っているイギリスや韓国の例にならって、医療分野においては原則、ヒト・クローニング技術の適用を認める内容の法整備を行います。しかし、この際には現状のクローン技術規制法の立法趣旨を考慮して、クローン人間の作成においては今まで通り、全面禁止の立場を維持します。これにより、現行のクローン技術規制法の立法趣旨をなくすことなく、ヒト・クローニング技術の医療分野への適用を可能にします。

2点目については、各世帯に対して政府が、ヒト・クロー二ング技術の資料を配布することで、国民のクローン技術に対する漠然とした認識を確かなものとし、誤解を解くことで、ヒト・クローニング技術の導入に理解を求めます。以上のプランを実行することにより、ヒト・クローニング技術の医療分野の研究を可能にし、技術導入の不安感を取り除くことが出来ます。


<締め>

 ヒト・クローニング技術は、必ずしも人間に害をなす科学では無く、これからの医療の更なる発展を約束する有用な技術なのです。

私は、本当の意味で救われる、自由な生を享受できる社会の実現を願ってやみません。

ご清聴ありがとうございました。

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