<導入>

本弁論では、幼児救急医療の充実による、安心できる医療体制の確立を訴えます。

<現状>

本弁論では、1歳から満4歳までの子供を幼児とし、幼児集中治療室を『PICU』と呼びます。集中治療室とは、特に重篤な患者を助けるためのものであり、言わば、医療の最後の砦なのであります。

現在、1歳から4歳までの幼児を対象とした、この幼児集中治療室『PICU』の数がまったく足りておりません。

27000人の幼児がPICUに入ることができていないのです。その27000人の受け皿となる医療施設は、日本には、たった、22施設24床しかありません。PICUの必要数が400床ということに鑑みると、設置率は、僅か5%と、極めて少ないのです。

治療の場がないために、現在、幼児は、大人向けの集中治療室ICUによる専門外の治療を施されています。しかし、このような専門外の治療では、適切な治療はできません。

そもそも、体の小さな幼児たちは、大人と比較し血管も細く、注射や点滴など初期治療段階から勝手が違うものであります。PICUを設置した静岡県の病院では、設置していないころに比べ、死亡者数が初年度で2割、5年たった現在で3割も改善されています。

また、どんなに豊富な医療経験を持った医師であっても、小児医療の専門家たる小児科医に見てもらわなくては、適切な対応ができません。

これにしたがって、日本の死亡率を見てみると

我が国において、集中治療室ICUの充実している幼児以外の年代の死亡率は、OECD加盟先進国の平均死亡率の60パーセントと、低い水準に抑えられています。しかし、これに対して、殆どの病院でPICUが導入されていない、1歳から4歳の年代にかけては、死亡率が140パーセントと、ここ『だけ』高い水準にあるのです。

以上のように、PICUがないことによって、日本の1歳から4歳の死亡率は高水準になっているのでありますす。

<理念>

私は、このように幼児の死亡率が高いということは、医療の意義に反すると思います。

医療とは、病気を治して再び日常生活をおくれるようにするためのものである。

病気から回復して、今までと変わらない生活を送れるようにする。

その『ために』あると思うのです。

その中で、救急医療は、扱うものが、特に危機に瀕している命であるがゆえに、早く医者の下へ行けて、その専門家に診てもらうこと、それで安心して欲しい。

(安心めどを立ててほしい)

幼児は、これから社会で生きていく人たちであります。それ故に、幼児救急医療制度を整えなくてはならないのです。

<問題点>

ここで幼児が死んでしまっては、築かれるはずだった社会とのかかわりが、永久に切れて行ってしまいます。

救急医療とは、迅速に専門家に診てもらうことで安心できなくてはなりません。

しかしながら、現状を直視して安心する人はいないでしょう。

むしろ不安にさいなまれるだけであります。

<原因>

では、なぜ、今PICUは設置されていないのでしょうか?

それについて2点説明致します。

1点目は、地域支援病院に患者が集中しすぎていること。

2点目は、地域支援病院への患者の集中により、PICUの配置にまで行き着いていないことにあります。

まず、地域支援病院に患者が集中しすぎていること、について説明します。

我が国の小児医療は、『一般の診療所』と『地域医療支援病院』が基本であります。『一般の診療所』とは、地域で施すことが出来る、小さな診療所等の事を指します。実際、小児医療の行われる施設の9割はこのような診療所であります。そして、もう一方の『地域医療支援病院』とは、都道府県が定めた地域の中心の病院であり、診療所のような小規模な施設では対処できない、救急医療、専門医療に特化した施設です。この『地域医療支援病院』は、救急患者の救急搬送のため、病院へのアクセス時間を基準に、全国に153ヶ所指定されています。

しかし、この『地域医療支援病院』は、本来、救急医療・専門的治療を計るために設置されましたが、現在、そのような機能を果たしづらくなっております。

法律上、地域医療支援病院は、80パーセントの患者は診療所など他の医療機関からの紹介患者とするとなっています。しかし実際には、78パーセントの患者は紹介なしでやってくる外来患者です。

このように、専門的な医療を施すという本来の目的に加え、一般の外来患者を診ることになっています。よって、『地域医療支援病院』では、診療所と比べ、医師一人あたりの患者数も2.5倍となっており、異常な量の仕事を強いられることとなります。本来救急医療をすべき『地域医療支援病院』の医師が、一般の外来患者で手一杯で、PICUに常駐できる医師がいないのであります。

そして、もう一点、このような地域支援病院への患者の集中により、PICUの配置にまで行き着いていないことについて説明します。

PICUを作ったところで、それに従事できる人材がいなくては何の意味もありません。どんなによい設備を作っても、システムを整えても、人を救うのは人です。最後は人材がなくてはどうにもならないのです。

<プラン>

それでは、以上からプランを提案させて頂きます。

まず第一に、小児救急医療を行う医師の確保を行います。

最初に診療所で診療されるべき外来患者を、診療所で診ることが出来れば、地域支援病院で働く医師の負担を大幅に軽減出来ます。

事実、病院に来る患者の68パーセントは診療所で対応可能なものであります。

その医療サービスすべてを診療所で行なっても、診療所の医師の業務負担は、1日あたり3人患者が増えるだけであり、十分に対応可能であります。

そこで、まず、電話による小児救急医療相談を周知させ、外来患者がどの病院に行くべきなのかを指導します。それでもなお支援病院に行きたい人に対しては、支援病院での初診料の値上げを行い、価格的優位によっても患者を診療所へ向かわせます。

これによって、地域医療支援病院における小児科医は本来の姿である救急医療、専門医療に専念することができるのです。

第二に、以上のプランを受けた上で、地域医療支援病院にPICUの設置し、小児救急医療の集約化し、地域医療支援病院の小児科へ救急搬送を指定します。

現在、地域医療支援病院は救急医療を行う地域ごとに設置されております。

この支援病院に幼児のための集中治療施設を設置します。この地域医療支援病院は、全国153ヶ所あり、救急医療を行うために構成されたシステムをそのまま活用します。

<展望>

これらのプランにより、PICUが設置されれば、徐々にノウハウを蓄積できるようになります。

PICUのある特定の病院の小児科に搬送が集中されることで、症例の蓄積がなされ、より医師の技術が生かせる環境が整います。これにより、医療水準が大幅に向上することになり、多くの子供たちの命が救わるようになります。

<締め>

「綱渡りではなく架け橋へ」

生まれて間もない、 か弱い幼児に、一人で綱渡りさせるのではなく、適切な医療の手で安全に5歳まで渡りきって欲しい。一本の綱しかなかった幼児救急医療という深く暗い谷に、新しい『橋』をかけましょう。太く、強いこの『橋』は、未来への架け橋となるのです。

ご清聴ありがとうございました。

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