「酒を出せ!」

中央大学辞達学会 横田伶緒

【導入】

 「酒を出せ!出さなければただじゃおかないぞ!」

そう言われた祖母は仕方なく酒を差し出しました。その酒を飲み干すと、再び始まる暴力。「やめよう、今度こそはもうやめよう!」そう思いながら、寝床につく祖父。再び目が覚めると、頭の中をよぎるのは酒のことばかり。

「酒を出せ!いいからもってこい!」この繰り返しにより、10年前私の祖父はこの世を去りました。

 祖父は重度のアルコール依存症患者でした。

【理念】

 アルコール依存症に苦しむ本人、家族。そして、被害を受ける第三者。

私は、そんな人々を救いたい!

 私は、本弁論において、アルコール依存症と、彼らを取り巻く現状や問題を分析し、

依存症から回復できる社会の実現に向けて訴えたいのであります!

 では、依存症の現状、アルコールを取り巻く環境を分析していきます。

【現状】

 そもそも、なぜ人は酒を飲むのか?

それは、日頃のストレスから解放されたいという思いから、精神的快楽を得るためです。適度な飲酒は、社会の潤滑油として働いているという現状が、日本社会にはあります。

 しかし、一方で過度な飲酒は、アルコール依存症という問題を引き起こしてきました。

「アルコール依存症」とは、自らの意思で飲酒を制限できなくなり、強迫的に飲酒行為を繰り返す精神疾患のことです。依存症患者には、飲酒を繰り返すだけの軽症段階と、飲酒後に、暴力などの破壊活動を行う重症段階の2つがあります。軽症段階の患者が、飲酒をさらに繰り返すことで、重症段階へと陥ります。

厚生労働省の調査によると、適正な飲酒量は1日につきビールの中ビン1本、アルコール換算で約20g程度。この数値を超え、1日平均60g以上のアルコールを摂取し続ける軽度依存の人々が、現在日本に約860万人おり、これらの人々が将来、依存症を発症するリスクが高まります。アルコール依存症は、平均約8年の習慣的飲酒により発症するもので、WHOの発表によると、日本において約230万人の人が依存症患者として認識されています。

日本の飲酒人口が6000万人程度のため、飲酒者の25人に1人がこの病気を患っています。

また、この割合は40年前の2.5倍の数値であり、

他のアルコールに起因する、急性アルコール中毒・飲酒運転等の発生が減少し続けている一方、アルコール依存症のみ増加傾向にあります。

【問題点】

 では、このようなアルコール依存症は、何が問題なのでしょうか。

 

 大きく分けて2つの問題点が有ります。

 1つ目は、患者を取り巻く家族・第三者に対する被害です。

例えば、私の家族の例では、依存症の祖父の看病・監視のため、家業の商店を全てやめて祖父に付きっきりになりました。

そして、祖父の奇声や暴力によって、家具が散乱し、祖母の泣き声が響き、少し目を離せば外に出て、繰り返される第三者への暴力や破壊行為。

これにより、本人は勿論、その家族までもが社会的に孤立し、職や人間関係、全てを失ってしまうのです。

アルコール依存症の家族は苦しんでいるのです!

この例は我が家だけでは有りません。アルコール依存症患者により被害を受けている家族は約90万人、家族の半数が精神疾患を患ってしまっています。

 2つ目に、

患者本人に生じる大きな苦しみです。

厚労省の調査によると、依存症患者本人は、摂取量を減らしたい、断酒をしたい、と考えている場合がほとんどです。

というのも、依存症患者はアルコールを摂取していない普段は“シラフの状態”であり、至っていつもの“その人”自身そのものなのです。

しかし、病気のため、患者は飲酒欲求を制限できず、強い依存性を持っている酒ゆえに、意思に反して飲酒を続けてしまうのです。

年間死者は全国で約3万人以上、11兆円もの治療費が掛かっています。

患者にとっても家族にとってもアルコール依存症は苦痛であります。

痛いのです!苦しいのです!

【原因】

 では、アルコール依存症はどのように引き起こされているのでしょうか?

その原因について分析していきます。

 1つ目の原因は、入手が大変容易である点です。

日本では、20歳以上であれば、誰でも簡単に酒を手に入れることが出来ます。

また、他の薬物と比べても、依存性に個人差がある点、少量の飲酒は害とは言えない点を考えても一概に禁止することが出来ません。こうした背景から、

依存症患者も酒の入手が極めて簡単な状況となっています。

 2つ目の原因は、病院で診察を受けている患者が極めて少ない点です。

これは、アルコール依存症自体、自覚が薄い病気であり、症状に気付きにくい一方、

重傷患者の場合は治療が困難なことに起因しています。

WHOの調査によると、全国に230万人の患者がいる一方、実際に治療をしている人はわずかに2万人です。

そのため、治る見込みの高い多くの軽症患者は重症へと陥ってしまいます!

【解決策】
 アルコール依存症の問題を解決するためには、
・アルコールの危険性を人々に認識させ、アルコール依存症を予防すること
防ぎきれなかった軽症の依存症を治し、重症に陥ってしまうことを防ぐこと
それでも尚、重症に陥ってしまった場合に、患者へ適切な治療を行うこと 

が必要です。

現在、政府の推進している政策は、

重症患者への抗酒薬と渇望抑制剤による治療です。

1つ目の抗酒薬は服用すると不快感で多量飲酒が出来なくなる薬で、

既に日本で使用されています。

2
つ目の渇望抑制剤は飲酒欲求を抑える薬として世界40カ国で利用されており、依存症患者の飲酒量の減少、再発防止効果が立証されています。

尚、この渇望抑制剤も日本での研究が進められており、
2012
年より導入が予定されています。

よって、重症患者への治療は、これらの薬治療で対処します。

従いまして、現在必要となっているのは、

依存症自体を予防すること、軽症患者を重症へと陥らせないことです。

以上を踏まえまして、私はプランを説明させて頂きます。


1年に1回、飲酒講習・飲酒検査実施による更新性の飲酒免許証発行 を行います。

まず、酒を購入する際には飲酒免許の提示を義務づけます。
飲酒免許は、
依存症に対する認知を深めるための飲酒講習

アルコールテストと肝機能検査による依存度を確認するための飲酒検査
の両方をクリアした成人に交付します。

これらの検査を受け、異常が無かった人に対しては飲酒免許を発行し、
異常が見られた人には、飲酒免許の発行を停止します。

この免許がないことを知りながら、 依存症患者に対して酒を譲渡する、もしくは依存症患者が他者に酒の提供を強要する等の行為を行った場合には刑事罰を設けます。

飲酒免許の導入により、
依存症患者の飲酒を制限することで、

飲酒者が適性飲酒量を超え、依存症になること
依存症患者が酒を購入すること、

軽度依存者が重度依存に陥ることを防ぎます。

このプランで依存性が発覚した場合には、

軽症患者に対しては従来通りカウンセリング等の治療を行わせます。
重症患者に対しては、前述の薬治療を義務化します。

これらのプランにより、
アルコール入手が容易な点、本人の自覚が薄く、通院・入院患者の少ない点、自力での克服が困難な点を打開し、
習慣飲酒からの依存症、軽症から重症へのプロセスを遮断します。

【終わりに…】

「酒を出せ!」今日もどこかでこの言葉が飛び交っています。適度なアルコール飲酒は、人との会話を円滑に進める潤滑油として働きます。しかし、過剰な飲酒は様々な惨劇を引き起こしてしまうのです。酒はあくまで飲むものです。我々が酒に飲まれてはいけません。

御清聴ありがとうございました。

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