「暴力核命」 

廣島美愛

2010年、8月広島

私が見たこの土地には未だ大きな爪痕が残っていました。

核兵器

一瞬のうちにして、建物を破壊し、尊い命を無差別に奪う熱線、爆風。そして白血病やがんを引き起こし、人々を苦しめる放射線。それは私たち人類にとって最大の脅威です。これまで核兵器を保有していたのは国のみでした。

しかし、現代新たに核兵器を手に入れようとする存在が表れました。

それはテロ組織です。

テロ組織とは「目的を達成させるために政治的敵対者を、あらゆる暴力手段に訴えて威嚇する集団」を指し、9.11や地下鉄爆破事件など、ある種、暴力行為自体が目的となっている集団もあります。

現在世界にはアルカイダを始め、「核テロ」を口にし、核兵器を手に入れようとするテロ組織が増え始めています。少し遡れば、地下鉄サリン事件を起こしたあのオウム真理教もまた核兵器を手に入れようとした組織の一つだったのです。彼らは公施設や人が多く集まる場所を標的とし、目的を達成させるために罪のない一般人を虐殺してきました。

世界では核テロ防止条約が採択され、核テロに対する認識が広まっています。そしてNPTに加盟していないインド、パキスタン、イスラエルが核安全サミットに参加したことからも、世界は核テロの脅威を認識していると言えるでしょう。

テロ組織が核兵器を持つということは、私たちが大きな恐怖と隣り合わせに過ごすことを意味しています。核テロは世界そして日本の安全保障を脅かす問題なのです。「テロ組織に核兵器が渡る可能性を根絶し、核テロの脅威を生み出さないこと」それこそが私の目標であります。

それでは、核テロを取り巻く現状を説明します。

核テロには、核物質の入手・核兵器の製造・核兵器の輸送この3つのプロセスを必要とします。ではこれは実現可能であるのかプロセスを遡りながら説明したいと思います。

まず、テロ組織は標的まで核兵器を運ぶことはできるのでしょうか。

2003年,アメリカへ核兵器を持ち込むことがいかに容易であるかを証明するため、核物質を国外からアメリカへ輸送するという実験が行われました。アメリカの放射線探知機は9.11後、強化され世界でもトップレベルの性能を持っています。しかし、その放射線探知機でさえ、核物質を発見することはできませんでした。

では次にテロ組織は核兵器を作ることはできるのでしょうか。

現在世界には物理学者が溢れ、今やインターネットで核兵器の作り方を調べることができます。既に1977年の時点で,大学生が公開情報のみを用いて1年以内に核兵器を製造出来ると実証しています。つまり、テロ組織は核物質さえあれば、核兵器をつくることができるのです。

以上をまとめると、テロ組織の核兵器の輸送、また核兵器の製造は防ぎようがありません。

テロ組織に核物質が渡ってしまったら最後、彼らはいつ、どこでも核テロを起こすことができる状態にあるといえます。

そのため核テロを防ぐためにはテロ組織の核物質入手を防がなければいけません。

では最後にテロ組織は核物質を手に入れることができるのでしょうか?

現在世界では核物質、流出に対してさまざまな対策が行われています。その例として、2006年のサミットでは各国で核セキュリティの開発が強化され、その結果、各国の核施設警備そして核物質の輸送警備が強化されました。

さらに、2004年の米露主催の会合では今年までにロシアとアメリカへ各国に拡散した核物質が回収される見通しとなりました。

このような対策、そして各国の核テロに対する姿勢を考慮すると、世界に拡散した核物質はアメリカ、ロシアへ集中するため、この2国からの核物質、流出を防ぐことが核テロの防止へつながります。

しかし、このように対策が打たれているにも関わらずいまだロシアでは核物質の処理が大幅に遅れています。

ロシアには1原子力潜水艦から出た核物質。2他国から回収された核物質 この2つがあります。

ロシアは現在、冷戦期に造った原子力潜水艦を解体しています。これらの原子力潜水艦は今年中に全て解体される見通しとなっていますが、解体と同時に現れた核物質の量は膨大なものであり、北極海の方では一時保管するという形がとられています。

またロシアは冷戦期に政治的な目的、そして核技術を世界に広める目的で、核施設と核物質を他国に供与しました。その後核テロの危険性が高まったことにより、他国に供与した核物質は今年までにロシアが回収し再処理施設に送ることになりました、が再処理施設の効率を考えると少なくとも100〜150年間、核物質を保管しておくための施設が必要とされています。しかしまだ建設の計画は建っておりません。

このように、ロシアは原子力潜水艦から出た核物質と現在回収されている核物質を同時に処理していかなくてはなりません。しかもこれらの核物質の量は膨大であると同時に、とても処理が困難であるため、ロシア一国では対応できていないのです。

このままではロシアにおける核物質、流出の危険性は解決せず、核テロの脅威は依然として残り続けてしまします。核テロは世界の、そして日本の安全保障上の課題なのです。

では核物質の流出を防ぐために2つプランを提示します。

一つ目にIAEAによるロシアへの技術援助

二つ目にIAEAの核燃料バンクに使用条件を加えます。

まず一つ目にIAEAによるロシアへ技術援助について述べます。現在IAEAは核セキュリティの強化を図るため各国に技術援助や情報の共有などを行っています。そのIAEAが一時保管されている、ロシアの核物質を再処理施設のある都市へ輸送し、保管施設の建設を援助します。

これにより早期の輸送を行い、そして核物質の保管施設を建設することにより、核物質の流出を防ぎます。

また資金は2002年に建てられた核セキュリティ基金から出します。保管施設にかかる費用は約2400万ドルと見積もられており、各国からの拠出金で賄います。

二つ目にIAEAの核燃料バンクに利用規制を加えます。

今年の12月にIAEAが国際的な枠組みで原子力発電用の核燃料を管理、供給する「核燃料バンク」を設立します。ロシアはこの核燃料バンクを利用し、回収した核物質を原子力発電所用の核燃料に転換して、核燃料を燃料の購入できない国に市場価格で供給しようとしています。ロシアはこの市場確保に重きをおいているため、核物質を保管する施設に十分な資金が割かれていません。そのため今後IAEAの核燃料バンクを利用する国に対して使用条件を加えます。その条件とはIAEAの査察を受け、核セキュリティの強化につとめることです。もしもIAEAの査察で核セキュリティが十分でないと判断された場合、供給する権利を停止します。

IAEAが技術援助することで、今後核物質の流出といった可能性は一段と低くなります。また、ロシアに核セキュリティを優先させることにより、遅れていた核セキュリティ強化のスピードも速くなります。核物質の適切な管理が確保されるということは日本そして世界の国々が安全へ大きな一歩を踏み出すことを意味しています。

核テロの脅威は世界共通のものです。もちろん日本も例外ではなく、そのリスクを負っています。

テロリズム。

日本語で、暴力革命。

この暴力革命が核兵器を用いて行われる。

そう、これから「暴力核命」が起ころうとしているのです。

影で迫る安全保障の脅威。

暴力核命を防ぐのは、今しかありません。

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